東京学芸大学教育学部総合教育科学系
生活科学講座
萬羽郁子先生 インタビュー

「生活の課題と実践」
の意義

萬羽先生

萬羽 郁子先生

横山先生

横山 みどり先生(筑波大附属小学校教員)

編集部

正進社 小学編集部

1. ご専門の「住生活」と「生活の課題と実践」について

編集部

指導要領には家族・家庭生活という位置付けで、「生活の課題と実践」が入っています。
先生方が実践する際、教科書の学習内容から深めて、安全、防災に関することも考えられると思いますが、いかがですか。

萬羽先生

小学校家庭科の住生活の学習内容には、防災や安全な暮らしに結びつくこともたくさんあります。

萬羽先生

例をいくつか示しました。整理整頓の学習を活かして、家の中の物の置き方を見直す、危険チェックをしてもいいと思います。

例えば清掃では、埃を取り除くことで、健康を守るという意味だけでなく、日々の清掃を通して、住まいの安全チェック、安全確認をするという点検の役割もあります。

実際にトラッキング現象による火災を防ぐためにも、清掃をして埃を取り除くということは大切になります。

実践の場は住まいだけでなく、学校や地域なども考えられます。住⽣活の安全については、⼩学校で学習したことと、中学校で学習することを繋ぐようなきっかけにもなると思います。

2.「生活の課題と実践」のふり返りの意味

編集部

今、「地域」というキーワードが出ましたが、⼩学校の段階で⽣活の課題を⾒つけて、家庭、地域、学校で実践することに、どんな意味があるのでしょうか。

萬羽先生

まず、自分たちで課題を見つけるということにあたって、これまでの学習のふり返りができると思います。
⾃分⾃⾝が、どのような⼈や物に⽀えられてきたかということを思い出しながら、⾃分に何ができるのかを考えることになるので、身近な人ばかりではなく、物を介して関わっている遠くの⼈や、社会との繋がりについても、意識することになっていきます。

萬羽先生

この学習のふり返りと関わりを意識することによって、できることや、やりたいことが広がったり深まったりする可能性があり、これは未来に踏み出すチャレンジになると考えています。

3. 領域横断のよさについて

編集部

先⽣⽅からは、学習をした後に⼦どもに家で実践させるに留まってしまうとよくお聞きしますが、領域を横断することのよさについて先生からお伺いしたいです。

萬羽先生

個⼈的には、領域を横断するというよりも、家庭や地域で課題を⾒つけて解決したい、挑戦したいと思った時には、⾃然に⾊々な学習の内容が結びついてくると思っています。
また、いきなりそれが全部できなくても、できることが増えていく中で、繋がっていくことも考えられます。

萬羽先生

ここで、住まいの話と結びつけると、よく住まいは⽣活の器という表現をされます。
これは、家庭の仕事、⾐服の⼿⼊れや着⽅、⾷事や調理、物の持ち⽅などが住まいで⾏われているからです。

暮らしの場所という意味では、他の領域で学んだことは切り離すことはできず、それぞれについて考えるときには、空間や場の整え⽅は⾃然に結びつくことだと思います。

なので、ぜひ先⽣⽅が「⽣活の課題と実践」に取り組む際には、これまで学習したことを結びつけられるきっかけ作りをしたり、夏休み、冬休み、春休みと、繰り返したりすることで、どんどん繋がって深めていってほしいです。

4. 失敗を次につなげるために

横山先生

課題を決めて学習として進めるときには、安全に⼦どもが試⾏錯誤できる体験活動になるといいと思うのですが、いかがですか。

萬羽先生

試⾏錯誤するという⾯で⾔うと、「⽣活の課題と実践」を教科から与えられた課題だと思うと、失敗してはいけない、正解を出さなければいけないと感じるかもしれませんが、⽣活⾃体は⽇々失敗なんてあるの当たり前で、料理も毎⽇同じようには作れないですよね。

萬羽先生

そういう意味では、成功することが成果になると思い込まずに、上⼿くいかなかった、チャレンジしたけど想像と違ってたときに、なんで違ってたのか考えていくことが⼤事になってきます。そういうことを共有できる環境作りで、失敗を失敗として捉えるのではなく次へのヒントにしていけると思います。

間違ってるから発表したくないというよりも、どんどんチャレンジして、どんどん変えていこうとなってほしいです。

5. 授業での学びを自分ごと化するには

横山先生

⽣活の根っこは⻑年変わってませんが、家電などのオプションみたいなところが家庭によって変わってきています。そこで、本当にシンプルな基本のところを教えるときに考えていることはありますか。

萬羽先生

学校で学べるのはあくまでも基本的なことに留まるので、⾃分たちでアレンジしていくことができるといいですし、その中で何が⼤事かと考えると、「⾃分⾃⾝でどう感じるか」だと思います。

⾃分の好みなどの感性の部分では、いくら設備や機械が整っても、そこで⾃分の思いや⼤切にしたいことを改めて考えながら、⾃分や、誰かのためにその⼈に合った⽅法を考えていくことが⼤事になると考えています。

横山先生

確かに、⾃分に問うような時間があるといいですよね。

萬羽先生

そうですよね。授業ではそこまではできないので、「⽣活の課題と実践」でぜひやってもらうと⾯⽩いと思います。

6. IoT(家電など)の活用について

編集部

IoT家電やAI家電の話もありますが、今後の課題として、⼦どもたちもAIと付き合っていくことになるときに、家庭科としてどう向き合うべきでしょうか。

萬羽先生

そうですね。私⾃⾝も掃除ではロボット掃除機を使っていますが、例えば介護が必要な⽅が⾃分⾃⾝でできないことを⼿助けしてもらえるという意味でも、ロボットとかIoTとかAIとかを活⽤するのは、すごく意味があることだとは思います。

萬羽先生

ただ、そのまま使うだけかというと、それだけでは物⾜りないと感じるのではないでしょうか。そこには少しずつでも⾃分なりのアレンジが⼊り続けるのではないかと考えています。

⾊々なことが⾃動化されたり制御されたりしていますが、その通りにやれば幸せというわけではなく、もう少しこうしたいというように、⾃分流にどう関わっていくかを考えることが家庭科の意義だと思います。

7.「生活の課題と実践」に取り組むためのポイント

編集部

「⽣活の課題と実践」を⼦どもたちに学習として進めてもらうにあたって、取り組みのポイントを教えていただけますか。

萬羽先生

プロセスの中で難しいなと思うのは、課題を⾒つけるところだと思います。
深めていくためにも最初の課題設定は重要ですが、それは⼦どもたちがいきなりできることではないですよね。

そういう意味では、「⽣活の課題と実践をするので、課題を⾒つけましょう」ではなく、普段の授業の中でも、⽇常⽣活の中での疑問を引き出すような授業を積み重ねていくことは⼤事だと思っています。

学術的な背景ばかりに縛られずに、⾃分⾃⾝の⽣活に戻ってくるようなテーマを考えてほしいので、普段から⾃分の⽣活に興味を持つということは⼤事にしてもらいたいです。

編集部

お聞きしてて⾃分流の関わり⽅を⾒つけたいと思いました。先⽣ありがとうございました。

萬羽 郁子先生

東京学芸大学教育学部総合教育科学系生活科学講座に所属。
専門は住居学。家庭科教員養成課程にて住生活領域を担当。環境整備にかかわる住まい方や、室内環境と健康・快適・安全性の関係について研究。著書に「初等家庭科の研究ー指導力につなげる専門性の育成」(共著・萌文書林)ほか。

0
閲覧 0